令和4年(ろ)第321号 窃盗被告事件
東京簡易裁判所令和4年11月1日判決

事案の概要:摂食障害(神経性過食症)に罹患している30代の女性被告人が前刑の執行猶予期間が切れて僅か2か月余りである令和4年6月7日、スーパーマーケットにおいて、過食による嘔吐をする目的でサラダチキン2個等15点(販売価格合計2440円)を万引きした事案です。

当事務所の林大悟弁護士が起訴後に弁護人に就任しました。

東京簡易裁判所刑事第1室は、犯行時に被害品を購入可能な所持金を有していたほか、実母から経済的な支援を受けていた被告人が実母に金銭的な負担をあまりかけたくないなどと思い犯行に及んだものであり、その動機には何ら酌量の余地はなく、その犯行態様も手慣れたものと評価できる悪質なものであると判示しました。加えて、被告人は、窃盗罪により懲役1年、3年間刑執行猶予に処せられたにもかかわらず、同執行猶予期間が切れて僅か2か月余りで本件犯行に及んでおり、他に本件と同種の窃盗罪により罰金刑に処せられた前科が認められることからすると、被告人の刑事責任は重いといえる等として、「検察官が実刑判決を求めるのも十分理由のあるところであって、当裁判所もその意見を首肯できるものとは思料する」と判示しました。
 他方、被害品は店側の判断で廃棄されたものの、いずれも被害店舗側に還付されていること、前回の公判でも情状証人として出廷した実母が今後の被告人のサポート及び再犯防止に向けた取組みを改めて誓約していること、弁護人も同様のサポートを弁論の中で口頭で申し出ていること、被告人も本件で保釈が認められた後に、医師の診察を受けるなどし、速やかに万引きの成功体験を減弱させる治療を受け始めるなどしており、今後も治療を続けて今度こそは二度と犯罪を繰り返さない旨当公判廷において誓約していることなど、本件においては被告人のために酌むべき事情も少なからず存するとし、「これらを考慮した上、なお、被告人に対しては、専門機関の助力の下に更生を図らせることも相当であると認め」ると判示しました。 

弁護の結果:懲役1年6月執行猶予4年保護観察付き

林大悟弁護士は、弁論当日に行われた被告人質問において、被告人が母親のみならず林弁護士にも更生のための支援を頼りたいと述べたことを受け、当初、弁論要旨には記載がなかった「当職も被告人に寄り添い更生支援をしていく所存である」と気持ちを込めて訴えました。その熱意は、裁判官にも伝わり、上記のとおり、「弁護人も同様のサポートを弁論の中で口頭で申し出ていること」を有利な情状として考慮してくれたものです。弁護人は、弁論において、通り一遍のことを列挙するのではなく、その被告人の現状や属性を踏まえて、気持ちを込めて裁判官に訴えかけることが重要だと再認識しました。
裁判官は、判決期日において、説諭を行い、被告人に対し、「あなたの反省の言葉は重視していない。被告人質問を聞いても実刑が相当だと考えていた。お母さんの証言を聞いて、実刑だけど減軽しようと思った。最後に、弁護人の弁論を聞いて、あなたには社会において自費での治療を継続させることが再犯防止のために相当だと思うに至った」と仰っていました。
林弁護士は、今後も裁判官の期待を裏切ることがないように被告人の更生支援を継続していきます。