過去に心神喪失であると判断された例があります。大阪高裁昭和59年3月27日判決です。この事案は摂食障害を患っていた女性がスーパーで万引きをしたというものでした。その女性はそれまでにも万引きを繰り返していて、執行猶予中の身でした。
同判決は心神喪失について下記のとおり認定しています。
「被告人は、本件各犯行当時、神経性食思不振症の重症者であったため、事理の是非善悪を弁識する能力は一応これを有していたものの、食行動に関する限り、その弁識に従って行為する能力を完全に失っていたもの、すなわち、右にいう食行動の一環たる食物入手行為に該当する本件各犯行は、いずれも心神喪失の状態において行なわれたものであると認定するのが相当である。」
しかし、かつて林が東京高裁で審理されたある事件でこの裁判例を引用したところ、高裁の裁判官から「その後、この裁判例に続く判例群はなく、事実上指導力はないとされている」との指摘を受けたことがあります。
 このことからすると、クレプトマニア(窃盗癖)の事案において、心神喪失と認定されるのはかなり困難ではないかと思います。