令和2年(う)第82号 窃盗被告事件
名古屋高等裁判所刑事第2部令和2年7月1日判決

事案の概要:名古屋地方裁判所令和2年2月17日判決に対して検察官が控訴をした事案です。
 検察官の控訴趣意は量刑不当の主張であり、本件は実刑判決を言い渡す以外にあり得ない事案であるから、保護観察付きの再度の執行猶予判決を言い渡した原判決の量刑は、著しく軽きに失して不当である、というものでした。

控訴審も原審に引き続き当事務所の林大悟弁護士が弁護を担当しました。

名古屋高等裁判所は、検察官の主張に対し一つ一つ検討を加え、適切に排斥して検察官控訴を棄却しました。
特に、原判決が一般情状を過大評価したとする検察官の主張に対しは、名古屋高等裁判所は、「原判決は、被害結果、犯行に至る経緯や動機、特に被告人の精神障害が犯行動機の形成に与えた影響が大きく、責任非難の程度が相当程度減じられていること、といった犯情を前提とした上で、これに被害弁償の事実や前回の裁判後の被告人の状況、被告人の更生への努力、更生環境、治療の必要性等の一般情状を考慮して、被告人に再度の執行猶予を付す判断をしているところ、このような判断は正に行為責任主義に則った量刑判断であり、一般情状を過大に評価しているというような検察官の主張は当たらない」と判示しました。
 また、検察官は、原判決の量刑はが過去の同種事案の量刑と比較して明らかに軽きに失するとも主張しましたが、『検察官が同種事案として掲げる「窃盗罪の執行猶予懲役前科が2件あり、直近前科の執行猶予期間中に万引きの窃盗に及んだ事案」161件の中にも、原判決と同様に再度の執行猶予に付した事案が一定程度存在し、検察官はそれらの事例についてのみ特段の事情があるかのようにいうが、上記のとおり、本件においても、再度の執行猶予が許されると考えられる事情が存在するのであるから、この検察官の主張も採用できない』と判示しました。
 その他、検察官が縷々指摘する点を踏まえても、被告人を実刑に処さなかった原判決の量刑が軽すぎて不当であるとはいえないとし、検察官控訴を棄却しました。
 被告人は、原判決後も平穏で安定した環境で治療を継続し、再犯に至ることなく無事に過ごしていました。