〇平成29年(ろ)第7号 窃盗被告事件

青森簡易裁判所平成30年6月1日判決

事案の概要:知的障害、窃盗症(クレプトマニア)、醜形恐怖症、ベンゾジアゼピン依存症と診断された40代男性の被告人が前刑の執行猶予期間中にスーパーマーケットにおいて、栄養ドリンク等4点(販売価格合計1328円)を万引きした同種万引き再犯事案です。

裁判の途中から当事務所の林大悟弁護士、福本直也弁護士が弁護人に就任しました。

青森簡易裁判所は、被告人の刑事責任は重く、検察官が主張するように実刑に処すことも十分に考えられると判示し、知的障害があるとしても、実刑を回避するほどの是非弁別能力や衝動制御能力の低さがあったものと認めることはできないと判示し、被告人がクレプトマニアに罹患していることは証拠上推認でき、このクレプトマニアが、被告人の本件犯行当時の是非弁別能力や衝動制御能力に一定の影響を及ぼしたことは否定できないが、本件犯行態様、犯行動機、犯行後の言動からすると、その程度は重大ではなく、著しく障害されてはいなかったというべきで、クレプトマニアであることが、実刑を回避するほどの是非弁別能力や衝動制御能力の低さに影響を与えたとまで認めることはできないと判示しました。

他方で、被告人が当初予定していた6か月の入院治療を延長して判決時まで専門病院で真摯に入院治療を継続していること、最近では、対人恐怖症の症状にも耐えて、欠かさずミーティングにも参加するようになってきており、被告人には一定の治療効果とともに治療意欲を認めることができること、今後も治療に専念することを誓っていること、被告人が退院した場合には、訪問看護、ヘルパー派遣、買物同行等の各種障害者福祉サービスを利用して、円滑に訪問看護を受けられる環境が整備されていることを認めることができること、本件を契機に、自分の特性や衝動的な問題についても学んだ被告人には更生の可能性がある者と期待できること、被告人の母も、被告人の今後の治療のための協力や被告人の再犯防止のために今後は同居して指導監督していくことを誓っていること、本件の被害額は1328円で高額とまではいえないこと、被害店との間では被害弁償が済んでおり、示談が成立していることなどを総合勘案すると、本件の罪は執行猶予の期間内に犯したものであるが、必ず実刑をもって臨まなければならないものではなく、以上の事情を、特に酌量すべき事情として考慮し、被告人に対しては、直ちに服役させるよりは、刑の執行を猶予し、保護観察の下、社会内で更生する最後の機会を与えるのが相当と判断しました。

 

弁護の結果:懲役1年執行猶予4年保護観察付き

 

被告人にはIQ54の検査結果もあり、知的活動の乏しさが顕著であり、万引きの違法性を実感する能力ないし事理弁識能力を実質を備えたものとして有しているかは疑問なしとしません。被告人の知的能力の低さという特質は大きな再犯リスク要因だと考えます。そのため、訪問看護の契約や母親との同居再開等、弁護人として最大限可能な再犯防止のための環境調整をしました。被告人が裁判官の期待を裏切ることなく更生することを祈るばかりです。私たちも適宜、被告人の近況を確認したいと思います。