〇平成29年(ろ)第701号 窃盗被告事件

東京簡易裁判所刑事第1室平成30年5月31日判決

事案の概要:30代前半の男性被告人が、同種事犯における前刑の執行猶予期間中にドラッグストアにおいて、ひげそり用替え刃2個(販売価格合計8704円)を万引きした事案です。当事務所の林大悟弁護士が起訴後に前任の弁護人から弁護を引き継ぎました。
東京簡易裁判所は、本件は、被告人に対して懲役刑の実刑を科すことも十分に考えられる事案であるとしました。他方で、被害額が極めて高額とまではいえないこと、被害品は還付済みであること、現時点では前記執行猶予期間は言渡しを取り消されることなく経過していること、被告人は犯行発覚時から一貫して素直に本件犯行を認め、反省謝罪していること、被告人には、自己愛性パーソナリティ障害、醜形恐怖症及び性別違和という精神疾患があると認められるところ、これらの疾患と本件万引きの犯行に至る動機形成との関連が皆無であるとまでは証拠上断定できないこと、被告人自身が、現に専門病院への入院等を経て、自己の問題性を具体的に自覚し、その改善に努めつつあるものと認めることができること、被告人の母親が、公判廷において、自己愛性パーソナリティ障害、醜形恐怖症及び性別違和に関する専門病院等での療養関係の支援も含めて、被告人と同居した上、一層の指導監督に努める旨を誓っており、被告人自身も、自己の問題性の更なる改善に向けて意欲的であることが認められることなどの諸事情を総合して考慮し、本件においては、被告人を直ちに刑事施設に収容して自己愛性パーソナリティ障害、醜形恐怖症及び性別違和の治療を中断させるよりも、保護観察所などの公的機関による適切な指導監督と家族の支援の下で専門家による治療を継続させることが被告人の再犯防止の観点から有効であると認め、被告人に対し、刑の執行を猶予し、保護観察を付した上、社会内において更生改善する最後の機会を与えるのが相当であると判示しました。

弁護の結果:懲役1年6月執行猶予4年保護観察付き(検察官の求刑:懲役1年6月)

証拠を適切に評価し、被告人の疾病性が本件犯行の動機形成に影響を与えた可能性を否定できないとし、被告人と家族が実践している再犯防止のための治療や環境調整を考慮し、直ちに刑事施設に収容するのではなく、被告人に社会内で更生する最後の機会を与えてくれた裁判官に感謝いたします。裁判官の期待を裏切らないように今後も被告人と家族を見守っていきたいと思います。