〇平成29年(う)第1977号 窃盗被告事件

東京高等裁判所第11刑事部平成30年5月11日判決

事案の概要:70代後半の女性被告人が、前刑の執行猶予判決言渡しから1年3か月でスーパーマーケットにおいて,保存容器1個等7点(販売価格合計1551円)を窃取した同種万引き再犯事案でした。原審の証拠上は万引きに影響を与えることが考えにくい軽度の認知症と診断され、原審の東京地方裁判所は、懲役1年2月の実刑判決を言い渡しました。控訴審から当事務所の林大悟弁護士が受任し,精神科医に鑑別診断を依頼したところ,被告人は前頭側頭型認知症と診断され,本件犯行に与えた影響も大きいと判定されました。

東京高等裁判所第11刑事部は、弁護側の責任能力に関する事実誤認の主張に対し、被告人には完全責任能力が認められるとしました。他方、量刑不当については、原判決の量刑はその時点では相当であったとしつつ、控訴審における事実取調べの結果,原判決後,介護保険の要介護1の認定を受けた上で,居宅介護支援及び施設における指定短期入所生活介護等が行われることとなり,公的制度のもとでの援助の枠組みが確立するなど再犯防止のための環境調整が相当程度進むとともに,実際に,その枠組みの中で,被告人が施設の指導や家族らの監督に服した生活をしていることが認められ,これらの事情によれば,再犯防止に向けた実効的な環境整備がかなりの程度整い,実際に効果を発揮しつつあることが認められる旨判示し、これらの原判決後の事情に、原判決が酌むべき事情として指摘していた家族の努力等の事情や被告人が高齢であることといった被告人に有利に考慮することができる諸事情を併せ考慮すると,現時点においては,再度の執行猶予を付していない点で,原判決は重きに失するに至ったということができると判示しました。

 

弁護の結果:原判決破棄・懲役1年執行猶予4年保護観察付き(原審:懲役1年2月)