2014年6月,DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、精神障害の診断・統計マニュアル)の第5版の日本語訳版が出版されました。英語版は前年の2013年に出版されています。
この本は,精神障害の分類のための共通言語と標準的な基準を提示するものであり、アメリカ精神医学会によって出版されているものです。

このDSM-5において,「クレプトマニア」に関する記述が,従前のDSM-Ⅳ-TRからどのように変化したのか,について説明いたします。結論から言いますと,診断基準は変わっておらず,分類と名称が変わっただけです。

■1.分類の変更

DSM-Ⅳ-TRにおいて,「クレプトマニア」は,「他のどこにも分類されない衝動制御の障害」に分類されていました。この章に含まれる他の疾患は,間歇性爆発性障害,放火癖,病的賭博,抜毛癖,特定不能の衝動制御の障害です。

DSM-5では,「クレプトマニア」は,「秩序破壊的,衝動制御,素行症群(Disruptive,Impulse-Control,and Conduct Disorders)」の章に分類されました。間歇性爆発性障害,放火癖,病的賭博,抜毛癖,特定不能の衝動制御の障害もこの章に分類されています。

■2.名称の変更

DSM-Ⅳ-TRでは「窃盗癖」とされていましたが,DSM-5では「窃盗症」と改称されました。

■3.診断基準の変更は無し

上記のとおり,分類と名称は変更しましたが,下記の診断基準に変更はありません。

A 個人的に用いるのでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
B 窃盗におよぶ直前の緊張の高まり。
C 窃盗を犯すときの快感、満足、または解放感。
D 盗みは怒りまたは報復を表現するためのものでもなく、妄想または幻覚に反応したものでもない
E 盗みは、行為障害、躁病エピソード、または反社会性人格障害ではうまく説明されない。