〇平成29年(ろ)第31号 窃盗被告事件

越谷簡易裁判所平成30年7月9日判決

事案の概要:前頭側頭型認知症(FTD)と診断された40代女性被告人が、前刑により執行猶予に付されて約4か月後にコンビニエンスストアで薬1箱等9点(販売価格合計1836円)を万引きし、逮捕後釈放され、当事務所の林大悟と面談し、林弁護士に弁護を依頼した後、約1週間後にスーパーマーケットにおいてサラダ1パック等13点(販売価格合計2763円)を万引きした同種万引再犯事案です。

越谷簡易裁判所は、証拠関係に照らし、被告人が前頭側頭型認知症の疾患を背景に、症状として、反復窃盗の問題及び神経性大食症を有しているとの疑いは否定できないというべきであり、その影響は限定的ではあるが犯行に及んでいたと認められ、情状面において考慮すべきであると考えると判示しました。

その上で、量刑の理由として、被告人の供述中には、被告人なりの社会性や責任感、規範意識を表していると見られる供述もある一方、窃取の瞬間の「商品を手にして頭が真っ白になる」とか「商品を手にして何も考えず、気がつくとバッグや袋に入れている」と述べている点からは、衝動が強まりその抑止が困難となった瞬間があり、そのときは合理的な行動制御能力が著しく低下している状態と窺え、これが主治医が診断した「反復窃盗の問題」であると考えられ、本件においても、このような万引きの衝動を抑えきれないまま犯行に及んだと認められるとし、被告人は入院治療を大変意欲的に取り組んでおり、継続的にこの専門的治療を受けさせることにより、再犯を防止し被告人の改善更生を図ることも期待されること、本件は万引き事案であり、被害弁償等も済んでいることなど、窃盗事件としては、特に犯情

の悪い事案とはいえないこと、反省を深めていることは入院治療及びその後の通院治療を継続していることからも認められること、母親の指導監督が一定程度期待できること等に鑑み、執行猶予中の犯行であることを考慮しても、現段階では、被告人や関係者の治療への強い意欲を評価し、社会内で更生する機会を与えることが相当であると考え、情状に特に酌量すべきものがあると認めました。

 

弁護の結果:懲役1年執行猶予4年保護観察付き(検察官の求刑:懲役1年6月)

 

充分な審理時間を確保してくれた上、被告人の治療意欲を評価し、被告人が実践している治療が再犯防止に資することを期待してくれた裁判官に感謝いたします。

被告人はクレプトマニア回復支援団体である一般社団法人アミティの会員となり、訪問看護による買い物同行支援を受けるなど、専門的な支援を受けています。今後もアミティの理事や家族とともに、被告人の再犯防止に向けた支援を継続していきます。