〇平成29年(わ)第622号 窃盗被告事件

東京地方裁判所立川支部刑事第3部平成30年3月16日判決

・事案の概要:前頭側頭型認知症に罹患している70代後半の男性が前刑の執行猶予期間中にスーパーマーケットで接着剤1個(販売価格409円)を万引きしたという窃盗1件の事案でした。当事務所の林大悟弁護士が弁護を担当しました。

東京地方裁判所立川支部刑事第3部は、責任能力及び窃盗の故意があることを認定した上で、計画的犯行とまで認めるに足りる証拠はないこと、被害額は低額であること、前科等の件数や、被告人が本件当時万引きを繰り返していたと認めるに足りる証拠がないことからすると、常習性が強いとはいえないこと、被告人がり患している前頭側頭型認知症が脱抑制という点で行動制御能力等に影響を与えた可能性は否定できず、非難の度合いは相当程度抑えられるといえること、本件につき保釈された後、精神科病院を受診し、再犯防止のプログラムを継続的に受講した結果、間違ったことをしてはいけないことをより強く認識するようになったとも述べていることから反省の態度や更生意欲は相当強く有していることがうかがわれること、内妻が情状証人として出廷し、被告人の監督を約束していること、要介護認定を受けるなどして生活状況を改善する措置を講じており、社会内の更生環境は本件時に比べて整備されていること、被害品が還付されていること、被告人の年齢も考慮すると、本件について前科の刑と併せて被告人を服役させることはやや酷であり、本件情状には特に酌量すべきものがあるということができると判断し、再度その刑の全部の執行を猶予してくれました。

 

弁護の結果:懲役1年執行猶予4年保護観察付き(検察官の求刑:1年6月)。

 

被告人の前頭側頭型認知症が本件犯行に影響を与えていることを前提として、精神科治療の実践や要介護認定を受けたことなどを理由に社会内で更生する機会を与えてくれた裁判官に感謝するとともに、裁判官の期待を裏切ることのないように、被告人の内妻とともに被告人を見守っていきます。