〇平成27年(わ)第230号 常習累犯窃盗被告事件

福島地方裁判所郡山支部平成30年1月31日判決

・事案の概要:前刑の同種万引き事件で懲役1年2月の実刑判決を受け,その刑の執行を受け終わってから,1年10か月に満たない間に,地元のスーパーマーケットで牛肉2パック等9点(販売価格合計2740円)を窃取し(本件犯行1),常習累犯窃盗の罪で起訴されたところ,その保釈中に同系列の別店舗において,再び,ホットケーキ1袋等9点(販売価格合計1936円)を窃取し(本件犯行2),常習累犯窃盗の罪と一罪の関係にあるとして訴因変更請求された50代女性の同種再犯事案でした。当事務所の林大悟弁護士が弁護を担当しました。

福島地方裁判所郡山支部は、「本件犯行1の当時,被告人の判断能力や行動制御能力の低下を疑うべき事情はない」としつつ、他方で本件犯行2については、「被告人が本件犯行2に及んだ主要な動機は,万引きである以上,商品を得るためにお金を使うのがもったいなかったからとも考えられるけれども,本件犯行1の勾留事実について保釈中,夫及び当時の弁護人から被害店には行かないよう厳しく言い聞かせられ,また,夫から生活費を十分に受け取っていたというのに,再度被害店で本件犯行2に及んだものであり,本件犯行2に及んだ動機には容易に理解し難い部分があるというほかない。また,本件犯行2の犯行態様は,被告人が他の特定される解離性障害‐ストレスの強い出来事に対する急性解離反応(OSDD)の状態で,無意識の中で,過去の慣れ親しんだ万引きの際の自己防衛的,反射的な行動が現れたものと評価することもでき,被告人に判断能力や行動制御能力があったことを認めるに足りるものではない」と判示しました。そして、「以上の事情によれば,検察官の主張を踏まえても,本件犯行2の当時,被告人は,OSDDの状態にあり,その影響を著しく受けて,心身が統合されず解離したまま本件犯行2に及んだもので,万引きの違法性を認識する判断能力又は違法性の意識によって行動の制御をする能力を有さず,心神喪失の状態にあったとの合理的な疑いが残るというべきである」と判示し、量刑の事情としては、「治療及び支援の開始が可能な範囲で早期に行われるのが相当と考え」,懲役1年8月を言い渡しました。未決勾留日数中540日がその刑に算入されたため、実際には、判決後、30日程度で出所しました。

 

弁護の結果:懲役1年8月

(未決勾留日数中540日をその刑に算入・検察官の求刑:懲役3年)

 

福島地方裁判所郡山支部判決は、鑑定人の意見を尊重し、被告人の精神障害が本件犯行2に与えた影響の有無・内容・程度を正しく認定するとともに、量刑事情として、被告人に対する治療及び支援の開始が可能な範囲で早期に行われることが相当であるとの理由で検察官の求刑を大幅に下回る懲役1年8月を言い渡し、未決勾留日数中540日をその刑に算入させたため、実際、被告人は、判決後、2か月ほどで出所し、早期に治療や福祉的支援を受ける機会を与えられました。弁護を担当した林大悟は、出所後も(元)被告人と連絡を取り合い、治療や再犯防止のための環境調整に関する助言をしています。