◯平成29年(わ)第100号大阪地方裁判所堺支部平成29年10月20日判決・事案の概要:
前刑(万引き)で懲役1年執行猶予3年の判決を受けた50代後半の女性が盗癖治療のために任意で入院していた精神病院から外出し,駅近くのショッピングプラザの食料品売場において,缶ビール等12点(販売価格合計4654円)を窃取した事案です。検察は起訴前の正式鑑定を実施し,強迫性障害,軽度精神遅滞が間接的に本件犯行に影響を与えていたものの,完全責任能力であったという起訴前鑑定の結果を踏まえ,大阪地方裁判所堺支部に起訴しました。裁判では,検察側の起訴前鑑定医と弁護側の私的鑑定医とも,被告人に強迫性障害,軽度知的障害(軽度精神遅滞)があるという点には争いがないものの,これらの疾病性が本件犯行に与えた影響の機序と程度について見解が分かれました。大阪地裁堺支部は,被告人には完全責任能力が認められ,基本的には実刑の選択を検討すべき事案であると判示しつつ,知的障害,強迫性障害等が犯行に一定の影響を及ぼしており,意思決定に対する非難の程度もやや弱まることは否定できないから,この点を量刑上十分に考慮する必要があるとして,被害弁償がなされていることや家族の指導監督が期待できること,入院治療の継続で再犯に及ぶことなく経過していること等の諸事情を考慮し,本件では情状に特に酌量すべきものがあると認められるとして,社会内での最後の更生の機会を与えてくれました。

・弁護の結果:懲役1年執行猶予5年保護観察付き。
被告人の疾病性が犯行に与えた影響の機序や程度を正しく評価し,入院治療の継続で被告人の治療努力と再犯防止効果が認められることを認定してくれた裁判所に敬意を表するとともに裁判官の期待を裏切らないように被告人を見守っていきます。なお,被告人は弁護士林大悟が設立したクレプトマニア回復支援団体アミティのサポート対象会員であり,今後もきめ細かいフォローをしていく予定です。