当事務所の林大悟弁護士,明石順平弁護士,徳田玲亜弁護士が平成27年4月14日,東京地方裁判所立川支部において無罪判決を獲得致しましたのでご報告致します。

 

 事案の概要:事件番号は,平成26年(わ)第49号窃盗被告事件。平成27年4月14日東京地方裁判所立川支部刑事第2部判決。NCSE(非けいれん性てんかん重積nonconvulsive status epilepticus)を起こした50代の男性がゲームソフト等販売価格合計4万5530円の品々を万引きした事案。

 

 判決は,被告人が犯行当時,NCSEの影響により,行動制御能力を欠き心神喪失状態であったと認定して無罪を言い渡しました。これに対する検察官からの控訴は無く,判決は確定いたしました。

 NCSEとは,けいれんを伴わないてんかん発作です。けいれんを伴うてんかん発作は発作を起こしているのが見てすぐに分かりますが,NCSEはけいれんが無いので一見すると普通に動いているように見えます。しかし,脳内では電気の嵐が生じており,様々な異常な症状が発生します。行動を制御できなくなることもその症状のうちのひとつです。

 本件の被告人の犯行態様は,隣に客がいるにもかかわらず,持っていた自分のバイクのキーで商品のクリアケースを執拗にこじ開けようとするなど,明らかに異常なものでした。

 主任弁護人林大悟弁護士は,このような被告人の異常な犯行態様から,被告人の脳に何か異常があるのではないかと思い,協力医に私的鑑定を依頼しました。協力医の作成した意見書によれば,被告人にはてんかんの症状がありました(※被告人はけいれんを伴うてんかん発作も何度も起こしていました)。そして同弁護士は,被告人の過去の犯行の前後にてんかん発作が生じていたことに気づき,それが過去の犯行及び本件にも影響したのではないかと考えました。そのような問題意識を記載して裁判所に正式な鑑定請求をしたところ,それが採用され,鑑定が実施されました。そして,その鑑定によって,被告人が本件犯行当時NCSEの状態になったことが明らかとなったのでした。

 NCSEは認知度の低い発作です。当事務所の把握する限りでは,過失犯である交通事故においてNCSEの犯行への影響が論じられた事件はあります。しかし,窃盗のような故意犯で論じられるのは我が国の刑事司法においておそらく初めてではないかと思われます。

 判決は,NCSEが本件犯行に与えた影響を正確かつ詳細に認定し,被告人に無罪を言い渡しました。同種事件の画期的先例となる極めて優れた判決です。

 

 なお,本件犯行は専門医の鑑定により,NCSEが原因で引き起こされたと認定されましたが,それはあくまで「本件では」そう認定されたということです。NCSEが必ず犯罪に結びつくわけではないと思いますので,くれぐれもNCSEの患者様達に対する不当な偏見が広まらないことを願います。